前作の続きです。なんかほんと「パラレルで BL漫画家×恋愛依存症」って診断の文字見ただけなのに、ここまで妄想がこじれると思いませんでした。
でも久々小説書くの楽しいです。





ふーなら小説表紙2-2





2月14日。
毎年この日は、その辺のスーパーで買ったいくつものチョコを持って、日ごろ遊んでもらっている男友達に配り歩いている。もちろん友達と言っても、ただカラオケに行ったりショッピングに行ったりするだけの友達ではない。とは言え全員が全員体の関係があるわけでもないし、ナランチャはそれらをまとめて「寝床」と呼んでいた。
しかし今年買ったチョコレートは一つだ。
バッグの中には既製品ではあるが、ちゃんと渡す相手の好みに合わせたチョコが入っている。
(丁度いいのがあってよかったなァ)
ブラックチョコに包まれたストロベリー味のチョコで、ラッピングには取り外して使えるイチゴのチャームが付いていた。
渡す相手の顔を思い浮かべて、ナランチャは思わず顔が緩んでしまいそうになり、それから我に返ってぶんぶんと首を振った。
先日の「原稿の参考」と言う名の事件で、その男と体の関係を持ってしまったものの、別に晴れて恋人同士と認め合ったわけではない。

(フーゴ、どうせバレンタインだなんて忘れてるだろうけど)

引きこもって漫画の原稿ばかりしているような男だ。こんな色恋イベントには疎いだろう。それでもナランチャは、きっとフーゴが喜んでくれるだろうと思って、家に向かう足を速めた。




マンションの部屋の前まで着くと、ナランチャはたくさんのストラップが付いている鍵を、じゃらっと金属音を鳴らしながら取り出した。鍵を開けてドアを開く。
「フーゴー、入るかんなァ」
すたすたとまるで我が家のように慣れた歩調で廊下を歩く。
するとまず先に目に付いたのは、お目当てのフーゴではなく、所狭しと高く詰まれた荷物の山だった。
ダンボールが6箱はあるだろうか。そのダンボールの上に、更に積み上がっている物が目に留まり、ナランチャは眉を寄せた。
立ち止まり一つ手に取ってみる。誰もが知っているような高級店のチョコレートだ。
どういう事なのか理解しきれないまま、ただ嫌な予感だけは込み上げながら、ナランチャはフーゴの部屋へと足を踏み入れた。
フーゴは背中を向けたまま、シャーペンを紙に走らせている。原稿中なのだろう。漫画を描いている時はナランチャが入って来ても何の反応もしない。それは別にいつもの事だった。それなのにナランチャは、少し苛立った声音で話し掛けてしまう。
「フーゴ!」
呼びかけられると、なんだよとでも言いたそうにフーゴが振り返る。
「なに」
「ねぇ、今日なんの日か知ってる?」
そう聞くと、フーゴはシャーペンを器用にくるくると回して嫌そうに答えた。
「バレンタインだろ。さっきから宅急便がちょくちょく届いてうるさいんですよ」
「・・・廊下にあったアレって、全部フーゴへのプレゼントなの?」
「出版社宛に送られて来るんですって。なんで女ってのは、バレンタインとかイベントごとが好きなのかな。この分じゃあ週末のサイン会が思いやれるよ」
たくさんの女性からプレゼントをもらっていると言うのに、本人はちっとも嬉しくなさそうだ。
「気持ちだけでいいんですよ。だってこんなにもらったって食えないだろ。あ、そうだ」
フーゴがいい事を思い付いたように、ナランチャを見つめた。

「きみ、食べる?甘いもの好きだろう?食い切れないなら、持って帰ってもいいですよ」

言われたその言葉に、渡そうと手に持っていたプレゼントが、力んだせいでぐしゃっと潰れた。
「フーゴの・・・」
「は?」
「フーゴのバカやろォ――ッ!ひとでなしッ!」
ナランチャが思い切り振り被ってプレゼントを投げると、ばしっといい音を立てフーゴの顔面にヒットした。
床にプレゼントが転がり、フーゴの表情は見る見る内に赤くなって怒りへと変わって行く。
「てッ、テメェ・・・ッ!このクサレビッチがッ!いつも泊めてやってンのになんつー言い草だッ!」
思わずうっと言葉に詰まりながらも、ナランチャは逃げるように踵を返して走り出す。
「フーゴのアホ!フーゴなんかもう知んねぇッ!」
言葉のボキャブラリーが貧相なせいで、捨て台詞にもならない言葉を残し、ナランチャはその場から去った。
後に一人残されたフーゴは、意味不明のままヒリヒリする顔に手を当てた。



ナランチャはとぼとぼと、自分の家に向かう道を歩いている。
こんな事ぐらいで泣くほど女々しくもないが、心の中に靄が掛かっているのは確かだ。
その中でふとナランチャは、去年のこの時期のことを思い出した。そう言えば去年もダンボール山積みのチョコレートやプレゼントが届いていた。バレンタインだけでなく、クリスマスや公表しているフーゴの誕生日にもそうだったかもしれない。
その時自分はと言えば、特に何も変わっていなかった。
でかいクマのぬいぐるみを見つけて「これいいなァ、寝る時抱き枕に丁度よさそう」と言ったらそれをそのままくれたような気がした。ふと、自分の鍵を取り出してストラップを見てみる。そのじゃらじゃらと付いたストラップの内、1つ2つはそうやってフーゴへのプレゼントを譲り受けたものだった。
(なんだ俺・・・)
ようやく気付いて、ナランチャは目を擦った。
(めちゃくちゃ意識してるじゃねーか・・・)
プレゼントを渡して嬉しがってくれるだけではなく、フーゴが自分を好きだったらと期待していたのだ。
なんだか自分が情けなくなり、ナランチャはその場に立ち止まって俯いた。




週末になり、ナランチャはとあるビルの周囲をうろうろしていた。
いつものラフな服装の上に、Lサイズのミリタリーブルゾンを羽織り、ナランチャの大きな目を隠すほどのサングラスを掛け、スポーティな帽子まで被り身を潜めている。
腕時計をみやると、時刻は午後1時50分。ネットで調べた情報によると、フーゴの言ってたサイン会は2時からだった。
あの引きこもりで怒りっぽくて、どう見ても性格に難のあるフーゴが、あんなにたくさんのチョコをもらえるほどモテるのか、この目で見て確かめたかったのだ。
実際にあれらのチョコはフーゴ宛と言うよりかは、フーゴの描いたキャラクター宛のものであったが、そんな些細な違いをナランチャが気付けるはずもない。
開催時間が近付き、書店が入っているビルの中へ進み、階段を上がろうとしてふと気付く。
長蛇の列がある。
階段を上りながらその列に目線を向けていると、列の途中で店員のような人が「本日開催のサイン会の最後尾は1階ですー!」と叫んだ声が耳に入り、思わず後ろを振り返る。
列は更にずらずらと長くなっていた。書店自体は確か3階だったはず。
ナランチャは思わずマジか・・・と口にして階段を下がった。
正直フーゴの漫画がどの程度の認知度なのか、ナランチャはまるで知らなかったし、フーゴ自身にここまで人気がある事も今初めて分かった。
なんだかここまで来ると、芸能人がモテるのは当然、と言うような感覚に近い。身近な問題ではないのだ。
ナランチャは大人しく列に並ぶと、なんとなく前に居る女の子に声をかけた。
「ねぇ、きみもフーゴのファンなの?」
急に話しかけたのに特に驚きもせず、肯定の返事が返って来る。
「そうですよ。未来アシストの頃からのファンで。あんまりサイン会とかやってくれないから、今日は楽しみですよね」
同意を求められて、ナランチャはこくこくと拙い動作で頷いた。
「あのさ、それってさ」
女の子が手に持っている物を指差す。色紙と、もう一つはどうやらプレゼントだ。
「ちょっと過ぎちゃったけどバレンタインのチョコです。先生甘いもの好きだといいけど」
「・・・そーだね。フーゴのこと・・・せんせいの事、好きなの?」
「え?いや、好きと言うか、感謝の気持ちみたいなものですよ」
あーなるほど・・・とナランチャは合点がいく。みんながみんな好意があって渡したい訳ではないのだ。これまで「寝床」相手にチョコを渡してきた自分とはえらい違いだ。
「あなたも先生のファンなんですか?」
「え?俺ェ?ウーン、ファンて言うか・・・でも好きだよ。だからココに居るんだし。あ、そう言やサイン会なのに色紙とか持って来てねぇや」
「忘れちゃったんですか?」
女の子は驚いたように瞬きをすると、トートバッグの中を探って白紙の色紙を取り出した。
「わたし予備に何枚か持ってきたんで、あげますよ」
「ええッ?いーよ、そんな、悪いし」
「でもせっかく来たんですから。先生もきっと喜んで書いてくれますよ!」
女の子に押されるがままにお礼を言って色紙を受け取ると、ナランチャは少しだけドキドキしながら順番を待った。


そして1時間くらい待つと、ようやく数人の女の子の前に、机に向かって座っているフーゴの姿が見て取れた。
短い時間ではあるが、一人一人のファンと会話するような時間を取っている。
(スゲー仏頂ヅラ・・・もっとアイソよくできねーのかよ)
よくこんな淡々とした受け答えでファンが集まるものだと、ナランチャは感心すらした。
そしていよいよナランチャの番が回ってくる。まだ5歩くらいの距離がある段階で、フーゴは目線を上げ瞳を開いた。
ちゃんと変装してたのにこりゃあバレたな、と心の中で舌を出す。目の前まで来ると、とりあえず色紙を差し出した。
フーゴはたっぷり3秒黙って、それからようやく色紙を受け取りサインペンを持ち直す。
「なんかのバツゲームですか?」
「そんなんじゃねーよ。・・・俺が来たかったから来たんだ」
すらすらと色紙に黒い字が乗って行く。その時ふと、机の上に出されたフーゴのペンケースが目に留まった。
そのペンケースに、見覚えのあるイチゴのチャームが付いていたのだ。
間違いない。あの投げ渡したチョコの、ラッピングに使われていたものだ。
「きみさ、プレゼントってああやって渡すもの?」
「それは・・・ゴメン」
ナランチャは罰悪そうに謝ると、かけていたサングラスを取った。たった数日会わなかっただけなのに、随分長い間会えなかったような気がした。
フーゴは書き終わった色紙をナランチャに押し付けると、手を広げて見せた。一瞬何のことか迷ったが、すぐにサイン会だったと言う事を思い出して握手をする。
フーゴの手は相変わらず冷たかった。
「この後どうせヒマでしょう?6階に文具店が入っているから、ぼくがいつも使ってるシャーペンと消しゴムを買って来て」
握手をし続けながら買い物を頼んでくるフーゴに、ナランチャはむっと口を尖らせる。
「なんでだよ。自分で買えばいーだろ」
「きみがそのおつかいを終える頃ぐらいに、きっとこっちも終わりますよ」
その言葉の意味は、ナランチャでもすぐに分かった。手が離れると、ナランチャは小さくこくりと頷く。
そして息を吸い、今度は元気よく口を開いた。

「フーゴせんせーのエロ漫画楽しみにしてまぁす!」

わざと大きな声で言うと、後ろに並んでいた列からくすくすと笑い声が聞こえ、フーゴは怒ったように追い払ってくる。
「さっさと行け!次ッ!」
「アハハ、じゃあまた後でな」
ひらひらと手を振り、サイン会から抜け出し列を外れると、ナランチャはなんとなくもらった色紙を見返した。
サインと日付、その下の方に『美味しかった』と書かれてある。
ナランチャは急に恥ずかしいような、嬉しいような、気持ちがごちゃごちゃと混ざって、走り出したい気持ちを我慢し、足早にエスカレータの方へと歩いて行った。

シャーペンと消しゴム。それもバレンタインのプレゼントに付け加えようと決めて。



<END>


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