弱虫ペダルログ置き場
新開×今泉
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10  11 12 13 14 15 16 17 18 19 20  21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  31 32 33 34 35 36 37 38

漫画 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10  11 12 13 14 15 16

小説 1 2

兄今
絵小説 1 2
御堂筋×今泉
1 2 3 4 5 6

漫画 1 2 3 4

金今
1

鳴今
1 2
荒今 絵小説 1 2 3 4

荒東
1 2

その他色々 絵 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 『君に恋した』(1) (2) (完)
デュラララ!!ログ置き場
シズイザ 小説 『部屋から出たくない』 ※R18 『人目』 『惚れた弱み』 『待ち合わせ』 漫画  絵  (ツガサイ) (ドタロチ要素) ドタイザ 漫画 ミカイザ 小説 『触れてはいけない』シズイザ要素 漫画 ドタろち 小説 『身代わり』 シズろち要素 『週末の恋人』 ドタイザ要素 『謝恩』 『分かりやすい男』 ドタイザ要素 『最後の人』※R18 『見えない明日(1) (2) (完)』 『俺の気も知らないで』 『この盃を受けてくれ』※R18 『二通りの関係』シズイザ要素 『過ぎ行く海岸線(1) (2) (3) (完)』 『恋の撮影現場』(前) (後) 漫画     6 絵         10 11
四木ろち 漫画 11 小説 『ファーストクリスマス』 『アフタークリスマス』 ※R18 『新年早々』 『不意打ち』 『知るも知らぬも地獄の沙汰 正ろち 絵  5 6 漫画  小説 『2回目の許諾』※R18 その他  To羅丸
そう言えば載せるの忘れてました。






『君に恋した(完)』



「金城……!」

呼ばれた金城は不適な笑みを見せて、新開の横についた。
汗こそかいてはいるが、心拍数の乱れを感じられない。
「新開。のんびりしているじゃないか」
「景色がいいからね」
苦し紛れにそう言ったが、確かに見晴らしはいいので、金城は頷いた。
「今泉クンは?」
「もう少し後ろに居る。このレースの最年少だろうに、よく登っているさ」
今回のレースは高校生以上の一般男性が対象なので、新開や金城でも若い部類である。
しばらく無言のまま、山道を並んで走って行く。
「辛そうだな。後ろに付いてもいいぞ」
「金城こそ、俺を風よけに使ってくれて構わないよ」
金城は好戦的な視線を新開に向ける。
「なら今回レースで勝った方が、次に今泉を誘えるなんてどうだ?」
「面白いね。でもいいのかい?山を越えたら後は平坦だぜ」
「なら今引き離すまでさ」
金城は、ふ、と笑うとギアを一枚落とし回転数を上げた。
「先に行くぞ」
新開はこめかみに流れた汗を拭いつつも、にっと笑う。
「なぁに、すぐ追いつくよ」
金城の背中は段々と遠のいて行き、やがて山なりに曲がって姿は見えなくなった。
ふぅ、と一つ息を吐く。
夏はとっくに過ぎ去ったのに、日差しが強いせいか、熱気を感じる。
ボトルケージに手を伸ばそうとした所、また背後から、今度はゆっくりと坂を上がってくる気配を感じた。
振り返らずに漕ぎ続けていると、横に並んで声を掛けられる。

「お疲れ様です」

想像はしていたが、やはり今泉だった。
新開は今泉の方に目線もくれずに、眉を寄せて前のめりになる。
「どうかしましたか?」
「いやぁ、ちょっと自分に自信をなくしている所かな」
「アンタが?」
とても意外そうに瞳を開いて、その後首を傾げていた。
「引きましょうか?」
思わず、ムっとしてしまった。
我ながら情けないとは思ったが、感情がそのまま言葉に表れてしまう。
「気にしないで、先に行けよ」
つっけんどんな言い方に、今泉はやれやれと嘆息し、サドルから腰を離した。
「ったく、変な所で子供っぽいんすから」
そう言って横を通り過ぎて行った。
今泉の影もそろそろ見えなくなりそうな所で、新開はもう一度額の汗を拭う。
こんなに色々な感情が渦巻くレースは初めてだった。
いつもはスピードを上げて行く快感を、ひたすら肌で感じていればいつのまにか勝利を得られていた。
だが今は違う。

金城に追い抜かれて悔しい。
今泉に上りが苦手だと知られていて恥ずかしい。
ソロでここまで上れないとは思っていなかった。

「くそ……っ」

新開は一度深大きく頭を振った。

(キャラじゃないんだけどな)

いつも余裕を見せて、スマートに勝利を得る。それが今までの自分だった。

(でも、しょうがないよね。今泉クン、譲れないもんね)

力が入りすぎてしまっているハンドルから手を緩め、改めて正しいフォームで握り直す。
意識的に腹式呼吸をして、心拍数を通常値になるべく近付けた。
落としていた腰を上げ、ダンシングの姿勢を取る。
ギアは落とさずそのままで、回転数を上げた。
足に筋肉のある新開だからこそ出来る技だ。
集中力を高めると、途端に自転車が軽くなったように加速する。
何も考えずにただ、ペダルに体重を乗せて行く。
気付くと視界の端に映る景色も、横に流れて行くほどのスピードだ。
ダンシングを継続しすぎているせいか、足がびりっと痛む。
プライベートで出場するレースで無理をするのは、得策ではない事ぐらい分かっていた。
やがて峠を越える頃になると、再び今泉の姿が目に入った。
これは下り坂で並ぶ速度になりそうだ。
前にもこんなパターンがあったような気がする。
新開の存在に気付いたようで、今泉ははっとして目線を配った。

「新開さん……!」
「やぁ、また会ったね」

にっと笑いハンドルの握り方を変えると、そこからは傾斜のついた下り坂だ。
前のようにブレーキを掛けなければならないほど、角度のついた曲がり角はなく、一気に速度を上げて行く。
ペダルが嘘のように軽い。きっと下り坂に入ったから、と言うだけではない。
最初はかろうじて後ろに付いていた今泉の車体も、段々と距離がついて行く。
くそっ、と言う今泉の声が背後から聞こえた。
ホイールが回る規則的な音が路面に滑り、もはや視界は前方一点しか見えていない。
サイクルコンピューターにすら目線を落とす暇もなく、一体何キロ出ているのか、自分でも分からなかった。
やがて下り道が平坦に変わろうとした時、前方に金城の姿を確認できた。
安定した走行を保てるようになり、ふと新開は一瞬だけ背後に目線をやったが、今泉はすぐ近くには居ないようだ。
(落車してなきゃいいけどね)
新開は下ハンドルに持ち替えたまま、速度を保ってギアを上げる。
ガシャッとディレイラーの動く小気味いい音が鳴り、速度は更に上がって行った。
(金城……!)
ようやく目前に見えた金城の背中を、視線で捕らえて離さない。
膝を自分の顎にぶつけるつもりで、クリートの力を借りペダルを引き上げると、面白いぐらいに速度が上がる。
負けたくなかった。
格好悪い自分を見せたくなかったし、金城に今泉を取られたくなかった。
頬に流れる汗も拭わず、必死に足を前へ前へと伸ばした。
風が金城に届いたのだろうか、振り返って口を開く。

「新開……!」
新開はふっと小さく笑った。
「のんびりしてるな、金城」
二台の自転車が隣に並んだ。
互いに譲らぬ走りで、凄い勢いで加速し疾走して行く。
カーブに差し掛かっても漕ぎ続け、車体を斜めに倒し有利なポジションを狙って走る。
「ようやく本気を出したのか?」
金城は速度を増したまま問いかけた。表情はさすがに辛そうだ。
「俺が本気じゃなかった事なんてないよ」
新開の瞳が、よりいっそう真剣そうな眼差しに変わる。

「自転車も、今泉クンの事に関してもね……!」

風を切るゴオオオッと言う音が聞こえるほど、スピードを出してわずかでも先へと出ようとする。
新開のタイヤが、1センチ、2センチと徐々に金城と差をつけて行く。
金城も歯を食いしばり、必死の形相でペダルを回す。
そしていよいよゴール地点が見え、観客も通過点に比べ大人数になっていた。
声援をかき分けるように、二台の自転車が駆け抜けて行く。
「おおおおお!!」
新開から思わず力の入った声が上がった。

(勝ちたい――!)

心の底からそう思った。
心臓の音が早く大きく鳴り響く。
路面が凄い速さで視界を流れて行った。
ゴールを示す白線が見えると、後はまるでスローモーションでもかかったかのような感覚に陥る。

そしてタイヤはごく僅かに、新開の方が先に白線を踏んでいた。

「うらああああっ!」
ゴールを駆け抜けるとハンドルから手を離し、拳を握って勝利を喜んだ。
「くそ……っ!」
金城は険しい表情で、ぎりっと歯を噛み締めている。
このまま倒れそうになる位、心臓の音が早かった。
(勝った……!)
速度を落としゆっくりとトラックを回って、きりのいい所でペダルからクリートを離し、地面へ足を付ける。
息を切らし汗を拭って、電光掲示板を探した。
記録は3時間11分5秒、順位は4位だ。
5位は金城、その差はコンマ1秒だった。
そして金城が近寄って来て、アイウェアを外す。
「さすがだな、新開」
「危ない所だったよ。金城は強いね」
よく言う、と鼻で笑って金城は自転車を引いた。
「すまないが本部の知り合いに挨拶をしに行って来る。今泉が来たら頼んだぞ」
「分かってるよ」
そう返事をして、数分経った頃だろうか。
今泉がゴールを迎えた。
記録は9位。新開や金城とは8分の差が付いていた。
いい記録とは言い難いが、自分なりに納得しているようで、新開の方に自転車を寄せてくる。

「お疲れ様です、新開さん。大健闘すね」
「今泉クンもね」
その時、今泉がペダルから離した足をつま先から地面に着地した。
新開は眉を寄せながら、それを指摘する。
「前から思ってたけど、つま先から着地しちゃ駄目だよ。踵に滑り止めがあるんだから」
今泉ははっと気付いて足元を見やる。
「あ、すいません。金城さんにも言われてたの、忘れてました」
「この間も立ちゴケしそうになってたろ?レースが終わってからも気を抜くな」
言い終わった後に、新開はしまった、と舌打ちした。
(キツイ言い方しちゃった……普通のデートならこんな事言わなくて済むのに)
今泉を自転車馬鹿だと思っていたのに、自分も自転車の事になると、つい本気になってしまうようだ。
今泉はしゅんとしたように項垂れて、すいません、と謝って来る。
ひどく良心が痛み、うっと言葉に詰まる。
(でも今回勝ったしね。次こそ今泉クンと二人で会えるかな)
その時、今回のフォローをさせてもらえばいいだろう。


そして今泉は自転車から降り、ヘルメットを外しながら、ぼんやりと新開に言われた事を反芻していた。

(新開さん、ちゃんと見てるんだな。やっぱ凄い人だ……)

いつも飄々としているようで、ほんの少しのミスも見逃していなかったのだ。
ヘルメットを手に持つと、心地いい風が今泉の髪を撫でて行く。

(今日の走りも、登り多いコースだから勝てるかと思ったけど、あっさり抜かされたし。……かっこよかったな)

そんな熱い眼差しを筋肉質な背中に送る。

どうやら新開は、知らぬところでポイントを伸ばしていたようだった。



◇◆◇◆◇



楽しい休日は終わり月曜日。
いつものように新開は屋上で昼休みを過ごしていた。

「あ、もしもし金城?なんだよこの部活スケジュール。俺と今泉クン休みまったく被ってないけど。え?そんなの知らんって?」

鉄柵に腕を乗せ、周囲にも聞こえるような声で、新開が電話をしている。
荒北はご飯を口に運びハシを噛みながら、隣に居る福富に尋ねた。

「誰と電話してんだァ……?」
「金城じゃないか。総北の」
当然の事ながら、疑問符がわく。
「なんで?」
「俺が知る訳がない」
あっさり言われると、それもそうかと思い荒北もそれ以上何も聞かなかった。

「あ、ちょ、っと、おい待てって。この日練習ずらせ……あー、くそっ切りやがった」

新開は、珍しく年相応な口調になっている自分に気付き、携帯をポケットに突っ込み、鉄柵を握って空を仰いだ。
空気は少しひんやりしていて、頬を過ぎ行く風が気持ちいい。

(……人を好きになると、色々変わるんだね)

自分の感情も、自転車の走りまでも。

新開の見上げた空は、ただただ青く光り輝いていた。



<END>

そう言えば続きを載せるの忘れてました。



『君に恋した②』


------------------------


『すいません、新開さん。オレにはどっちかなんて選べなかった』

その言葉が脳裏によぎると、新開は手に持っていたジュースパックをぐしゃっと握り潰した。
幸い中身は空だったので、そのまま近くにあったゴミ箱に捨てた。
実際に今泉にそう言われた訳ではないのだが、結論は同じ事だ。

(まぁいいさ。今は好きにさせておいてあげるよ、今泉クン)

胸中で一人呟くと、新開は昼飯を食べるために屋上へと足を運んだ。
「おー、来んの遅ぇぞー」
すでに荒北や福富がいつもの位置を陣取っていて、弁当を広げている。
「売店混んでてね」
新開の言葉に生返事をした後はもう、荒北の目線はすぐに福富に移る。
ちゃんと噛んで食えよォ、とか、俺の卵焼きいる?とか、しきりに話し掛けていた。
(こいつらは付き合ってるんだろうか……)
聞いた事はないのだが、直感は当たる方なので、おそらく思った通りなのだろう。
新開はパンを口に含んで噛みながら、ぼんやりと考える。
(だとしたら、靖友が寿一と俺の二人と付き合うみたいなものか……)
リアルな想像をしてしまい、ない!絶対ない!と、危うく言葉にしてしまいそうだったが、なんとかパンと一緒に飲み込んだ。
するとそこへ、携帯電話の着信音が響いた。
取り出して画面を確認すると、今泉からだった。
通話ボタンを押すと、立ち上がってその場から少し離れる。
「もしもし」
『あ、今泉です。お昼休み中すか?』
「そうだよ。今泉クンはもうご飯食べたの?」
『いや、まだなんですけど。昨日メールもらった件で、ちょっと話したくて』
今週の日曜は部活動も休みの日だったので、昨夜デートの誘いをした所だった。
総北高校の部活動スケジュールが分からないので、駄目で元々と言う気持ちではあった。
「忙しそうなら無理しなくていいよ」
『いえ、その日オレも部活休みなんです。それで丁度鎌倉の方でレースがあるみたいで。よかったら一緒に出ませんか?』
予想外の返事に、新開は二つ返事で了承した。
「もちろん。そのレース前に出た事あるけど、距離はないけど勾配キツいよ」
『勾配があって困るのは、オレじゃなくて新開さんじゃないですか』
「はは、そうかもね」
その場で詳しい待ち合わせ場所と時間も決めてしまって、電話を切った。
週末の約束ができた事もそうだが、今こうして電話をして来てくれた事も、とても嬉しかった。
鼻歌交じりに携帯をポケットに突っ込みながら、また元居た場所に戻ると、荒北が眉を寄せて新開を見上げる。
「ったく、お前と言い東堂と言い、昼休みは電話する時間じゃねェっての」
「……靖友、前に寿一が休んだ時、昼休みに電話してなかったか?」
「したけど、それがなんか関係あんのかァ?」
荒北の返事に深く突っ込む事はやめて、新開は昼食を再開した。

(さすがに最初から、映画に食事ってコトにはなんないね)

レースに出場する事を、果たしてデートと言っていいものなのだろうか。
とにかく、今週末に今泉と会えると言うだけで良しとしておいた。


◇◆◇◆◇


そして迎えたレース当日は、見事な快晴。
雲なんて一つもなかった。
天気と同じような、清々しい気分で走れればよかったのだが。

「なんでここに居るんだ!?」

金城と新開、二人の声が同時に響く。
お互い顔を見合わせ、驚きの表情を浮かべる。
当本人の今泉は、何をそんなに驚く事があるのか理解できないように、首を傾げていた。
新開は今泉の方を見やり、嘆息交じりに問いただす。
「どう言う事なのかな?今泉クン。俺は金城も一緒だとは聞いていなかったけど」
むしろ言わなきゃいけなかったのか、位の気持ちで、今泉は素っ頓狂な顔をする。
「えっ皆で乗ればいいんじゃないですか?」
「乗る?誰が?誰に?」
新開がつい下品な冗談を言うと、金城が頭をはたいて止めさせた。
「いや、各々、自転車に」
冗談の意味は分かってないようで、今泉は顔色も変えずに返事をする。
さすがの金城も先行きに不安を覚えたのか、難しい表情で眉間に指先を当てていた。
すると新開は不意に金城の肩に手を回し、体の向きを反転させ今泉から3歩ほど離れて小声で話し出す。
「金城。え?これって天然なヤツ?」
「すまん、今泉は本当に自転車以外に関心が薄くて」
近くに居てその事をよっぽど身にしみて分かっているのだろう。
金城は溜息を吐きながら首を振った。
二人で後方をちらっと見やれば、今泉がはにかんだ笑顔を見せている。

「うちのエースに箱学のスプリンターと走れるなんて、こんなチャンス滅多にないですね」

嬉しそうだ……!と金城と新開は内心で叫んだ。
普段は顔色一つ変えないくせに、よっぽど楽しみなようで、頬に赤みが差し込んでいる。
その照れ隠しだろうか、ハネた髪を耳に掛ける仕草がたまらなく可愛く映った。
こうなったもう、金城も新開も何も言えるはずがない。

「仕方ないね、今日の所は」
「ああ、今度から誘う日はずらそう」

そんな取り決めがあっさり行われると、ようやく3人は自転車を組み立てる作業を始めた。


◇◆◇◆◇


もう間もなくレースが始まると言う時間に差し掛かり、3人はスタート地点に立っていた。
金城は自転車にまたがって腕を組みながら、今泉の自転車に目線をやる。
「今泉、空気圧は下げたか?」
「あ、はい。7ちょっとです」
「足のケガはどうだ?練習中に転んでいただろう」
「擦っただけなんで、大丈夫です」
「そうか。回しながらラチェットの調整も忘れるなよ」
「はい」
新開はヘルメットを被りながら、そのやり取りを聞いていた。
(過保護だなぁ……毎回そんな確認してるのか)
うちとはえらい違いだ、と呆れるやら感心するやら、複雑な気持ちになる。
新開はグローブをはめ終えると、今泉ににこっと笑い掛けた。
「今泉クン、俺の後ろに付きなよ。速度も合わせるし」
後ろから肩に手を伸ばそうとすると、すかさず金城が払いのけた。
「慣れない相手と走行するのは危険だ。俺が引こう」
自分の背中で小競り合いが起こっているとは思っても居ない今泉が、小さく首を振る。
「いや、今回はソロでいいです。どれだけ回せるか試してみたいんで」
そう言われて二人は渋々引き下がると、レース開始のアナウンスが流れた。
会場の空気がより一層熱くなる。
観客場所からも、たくさんの声援が降りて来た。
ハンドルを握る手に、力がこもる。
そしてスタートの合図を示すピストルの音が、辺り一面に鳴り響いた。
スタートダッシュを切ったのはもちろん新開だ。
場所取りがよかったと言うのもあり、ダンシングで加速し周囲を追い抜いて行く。
負けじと追い掛けるのは金城、次に今泉だ。
しかし金城と今泉の差はどんどん開いて行く。
そのまま平坦な道が続くと、今度は新開と金城の間に距離が出来てきた。
やはり箱根学園のエーススプリンターの名はだてではない。
風を切るように颯爽と、加速しペダルを回して行く。

(まぁこんな時ぐらいカッコつけさてもらうよ)

レースにはセミプロも参加しているようで、さすがに一位独走とまでは行かないが、後方に人の気配はなかった。
ただ新開はこの先のコースで気に掛かっている所がある。
後もう50キロも行けば、徐々に登り道になり、そこから先は斜度が15度はあるヒルクライムへと突入してしまう。
ここ最近、ソロで山道を登った事はなかった。
(距離はないし、最初に引き離しておこうかな)
そう考えていつもよりはペースを上げ、平坦道をこなしていく。

そしていよいよ上り道に差し掛かり、タイヤに重力が乗り始めた。
(金城と今泉クンはまだ来ないか。もう少し回しても……)
いつものワンデイレースに比べても、走行距離も長くはない。
筋力にはあの二人より自信があるし、回転数を上げてペダルを漕ぐ。
ふと、サイクルコンピュータを見やると、心拍数が普段よりも上がっている。
(180……!)
普段だとこのペースであれば1分で170回くらいの心拍数が普通だ。
居るはずもないのに、靖友の姿を探すように目線を配ってしまった。
(嫌な感じだ)
そう思ってしまった事に、少しの後悔をする。
自分の直感は当たるのだ。
負のイメージはできるだけ払拭したい。
斜度がきつくなりそうな少し手前で、サドルから腰を上げ、ダンシングでペダルを回して行く。
ふと、背後からタイヤが地面をギュッギュッと削って来る音が聞こえ、思わず心臓の音が跳ねる。
(抜かれるな)
そう思った時には、新開の横を誰かが通り過ぎて行った。
しかし抜いて行った男は、知った顔ではなかったので、僅かに肩を撫で下ろす。
(……なんだこの無駄な緊張感は)
我ながら、本調子ではないな、と感じる。
余計な事を考え過ぎているのだ。
そうこうしていると、また背後から坂を上がって来るタイヤの音が聞こえる。
今までとは違う、圧迫感のある気配だ。
思わず新開は背後を振り返った。

「金城……!」




『君に恋した①』




部活が終わり今泉が更衣室に着替えに行くと、沈みかけた太陽の光が差し込んでいた。
更衣室に残っていたのは金城だけだ。
お疲れ様、と声を掛けて来た金城の唇は少し硬そうで、普段話す内容もやっぱり硬い話が多かった。
だから。

「好きだ、今泉。付き合って欲しい」

その唇からそんな甘い言葉が紡がれるなんて、今泉は思ってもみなかった。



◇◆◇◆◇


今泉にとっての金城と言う男は、指導力があり部員から慕われ、
ロードレーサーとしての技術も知識も持っている、尊敬できる人物だ。

(まさか、金城さんが……)

照れくさい思いを拭うように頬を擦る。
金城はあの後、驚きのあまり言葉を無くしていた今泉の肩を叩き、急いで考えなくていい、と言って更衣室を出て行ってしまった。
ロクな受け答えも出来なかった自分に、情けなさを感じる。
今泉は家へ帰ってからも、なんだか落ち着きがないように、椅子に座ったりベッドに寝転がったりしていた。
初めて金城と会った時から今までを振り返り、いつからそう言った好意を抱いていたのだろうかと考えた。
そこへ不意に携帯の着信音が鳴り響き、思わずびくっと肩が跳ねる。
今日の事もあったし、金城かと思い携帯の画面を見ると、そこには「新開 隼人」の文字があった。
首を傾げながらも、通話ボタンを押してみる。
「はい」
『あ、もしもし今泉クン?』
インターハイで知り合った箱根学園のエーススプリンターは、こうしてたまに電話を掛けて来る。
「どうしたんです、こんな時間に」
時計を見やると、夜の11時。
いつもは朝練に備えて寝ているような時間だ。
『ゴメン、明日も早いって分かってるんだけど、どうしても今日伝えなきゃいけない事があったんだ』
新開は、本当はそっちまで行ければ良かったんだけど、と言葉を付け足す。
そこまで言うからには、よっぽど大事な用なのだ。
聞かない訳にはいかない。
「いいですよ。でも手短にお願いします」
『うん。一言だけでいいんだ。あのね、今泉クン』
新開は一呼吸置いてから、言葉を発した。

『ずっと前から君の事が好きなんだ。俺と付き合って欲しい』

今泉はそのセリフを聞いて、一瞬思考が停止した。
何かおかしい。
ほんの少し前に、こんな事があったような気がした。
そう思っていると、新開が小さく笑った声が聞こえる。
『同じような事言われたなって、そう思ってる?』
今泉は瞳を開いた。
「なんで、それを……」
『金城だろ?』
なぜ新開が知っているのか、訳が分からなかった。
『さっき金城から電話があったんだ。俺はもう今泉に気持ちを伝えたぞって。言わなきゃいいのにね。そんな時でも公平な男だよ、あいつは』
金城らしいと言えばらしいのだが、腑に落ちない点もある。
「どうして金城さんが、それを新開さんに言ったんですか?」
『戦線協定って言うのかな。俺も金城も気持ちは一緒だったのさ。君を好きだって言うね』
「……知りませんでした」
率直な感想が今泉の口から漏れると、新開はまた少し笑った。
『金城に返事はまだ出していないんだろう?』
そんな事まで話しているのかと、今泉は先程から驚いてばかりだ。
『俺への返事もゆっくりでいいから。決まったら聞かせて?』
「あ、はい……」
我ながら間の抜けた返事をしてしまう。
電話が切れかけたその時、新開が、『あ』と言う単語を口にした。
『ごめん、もう一言だけ』
「はい」
『もし付き合ったら俺、今泉クンのこと大事にするよ。毎日メールも電話もするし、休みが合えば会いに行くし、あと……そうだな、スプリントのテクとか教えるし』
並べられる言葉に、今泉はなぜか面白くなって、くすっと吹き出し口元に手をやった。
「なんですか、それ」
『自己アピールってヤツ?それじゃあね、今泉クン。明日も頑張って。お休み』
「はい、お休みなさい」

通話が切れた後も、今泉は携帯から手を離せずに居た。

(新開さんは、優しい……)

前に一緒に走った時、クリートが固く立ちごけしそうだった所を、手を引いて助けてくれた事がある。
レースの前のざわついて乱れがちなメンタルも、観客の中に紛れて新開の姿があると、それだけでほっとしたような気持ちになったりもした。
初めて会ったのは夏の暑い時期だったのに、あれからもう3ヶ月も経って冬に差し掛かっているのだ。
自転車だけを考えて来たせいか、時の流れが速く感じる。

(オレは……オレの気持ちは……)

どさっとベッドに身を投げるようにして体重を預ける。
瞳を閉じると、金城と新開の顔が思い浮かぶ。

今泉は一度強く目を瞑ると、ばさばさと乱暴に布団を被って、眠りについてしまった。


◇◆◇◆◇


新開が今泉から電話を受けたのは、告白してから1週間が経った日の事だった。
会って話がしたいと言うので、その次の週末に、住んでる場所の間を取って、東京のとある駅で待ち合わせる事にした。
気持ちのはやりを押さえ切れず、かなり早めに待ち合わせ場所に到着してしまう。
新開は駅前の広場で壁を背にして、腕を組んだ。
(今泉クン……どっちにするつもりなんだろ)
実の所、新開は自分の方が分が悪いと感じていた。
今泉はあれで寂しがり屋な面もある。
いつも一緒に居れる金城は、その点では有利だろう。
(まぁ、どっちも選ばないってのも有り得るか。他に好きな人居たりしてね)
自分で思い付いたくせに、実際想像するとがくっと項垂れてしまう。
その後も色々と思いを巡らせていると、いつの間にか時間は待ち合わせの5分前だった。

「新開さん」

名前を呼んで小走りで近寄って来た今泉は、いつものようにウサギのロゴマークの付いた洋服を着ていた。
その姿を見ると、今まで考えていた悩ましい思いも、全部すっ飛んで行ってしまう。
ああ、好きだな、可愛いな。そんなふわふわした気持ちで頭がいっぱいになる。

「早かったですね。自転車ですか?」
「いや、今日は置いて来たよ。都心は走り辛いからね」
今泉は一つ頷いて、軽く前方を指し示した。
「少し、歩きませんか?」
「ああ、そうしよう」
新開は壁から背を離し今泉と並ぶと、道なりにゆっくりと歩き出した。
都心とは言え栄えている駅から外しているので、喧騒もなく、歩道に咲く花は鮮やかだ。
「あの、オレ」
「ん?」
今泉は歩きながら、言葉を選ぶようにして正面を見つめつつ話し始める。
「新開さんの事、凄いなって思ってて。……人に優しいし、話を聞くのも喋るのも上手いし。それに、修善寺のレース覚えてますか?2ヶ月くらい前の」
「もちろん。今泉クンが応援に来てくれたからね」
「あの時のあんたは最高にかっこよかった。あんな力強い走りは、高校生で他に見た事がない」
今泉の言葉に熱がこもる。レースを思い出しているのだろうか。
新開は褒められ過ぎて逆に嫌な予感がして、眉を寄せる。
ふと、今泉が立ち止まった。

「でも、すいません。オレ、本当に自転車の事しか頭になくて。新開さんとは付き合えません」

やっぱりな、と新開は思った。自分の直感は外した事が無い。
ただ理由に合点が行かなかった。
「自転車に夢中だから俺とは付き合えない?」
「……そうです」
「俺の事はどう思ってるんだい?率直に」
すると今泉は俯いて、たどたどしく話し始めた。
「……今思えばあの修善寺のレースの時から、オレ、新開さんの事が、その……」
「うん」
「あの……す、好きなんです、きっと……」
「きっと?」
「ああ、いや。オレも、好きです。新開さん。でもオレには……」
続けられるはずだった今泉の言葉は、新開が急に手を引き寄せた為途切れてしまう。
腕の中に今泉をおさめ、ぎゅっと抱きしめた。
「そんな事言われて、諦められる男なんて居ないよ。今泉クン」
新開は目線を今泉に移し、真っ直ぐ見つめた。

「自転車が好きな君が好きだよ。だから、俺と付き合って」

今泉は眉を下げ小さく首を振りながら、一歩後退する。
「こ、困ります。オレ、そんな……」
あまり見た事のない表情だ。
本当にどうしていいのか分からないのだろう。

「そんな、金城さんと同じ事言わないで下さい……っ」

今泉がふと背後に振り返り、どこかを見ているような目線を送った。
つられて新開もそちらの方に目をやると、どこかで見た事のあるような人物が立っている。
金城だった。
彼はこちらに近寄ってくると、ごく軽く新開に挨拶をした。

「会うのは久しぶりだな、新開。日に焼けたか?」
「ああ、先週ハコガクメンバーでバーベキューやって……って、いや、え?どうして金城が?」
当の本人の今泉は、心底申し訳なさそうに、頭を垂れている。
「実は……金城さんにも、同じ返事をしました。今日は付いて来ると言われたもので」
と言う事は、今泉は金城にも好きだけど自転車があるから付き合えない、と言ったのだろうか。
内心では相当驚いていたが、すっかり覚悟を決めている様子の金城を前に、動揺は見せたくなかった。
「それで?同じように押し切られたのかい?」
方眉を上げつつ尋ねると、今泉は小さく頷いた。
新開は一つ小さく溜息を吐き出す。
「ふぅん、ならさ」
顔を上げ、金城と今泉を見やった。

「どっちとも付き合えばいいんじゃない?」

意外な事に、金城は特に表情を変えなかった。
びっくりしているのは今泉だけである。
「え!?いや、それはおかしくないですか……!」
新開は今泉に向き直り、諭すように、ゆっくりとした口調で言った。
「俺の事嫌いって言うなら諦めるけど、そうじゃないなら、諦める理由なんてない」
まぁ、嫌いって言われても諦めないけどね、と心の中でだけ付け足しておく。
「右に同じだ。第一、自転車が大事なのは、ここに居る全員がそうだろう。誰も生半可な気持ちで乗っている訳じゃない」
「そう言う事。自転車乗ってるからって恋愛しちゃいけないって事はないだろ?」
「まぁ、そうですけど……でも」
「その上今泉クンは、俺か金城かどっちにも決められないと」
「う、……はい、それは、そうです」
そこは罪悪感があるのか、言葉に詰まって言い返せなくなってしまっている。
金城は一度頷いた。

「決まりだな」
「そうだね。決まりかな」

すでに了承するしかないような状況を作られ、今泉は頼りない声で、はい……と頷きうな垂れた。



◇◆◇◆◇



「まさか金城が納得するとはね」
「粘れるだけ粘ってみるさ」
「そう言って隙あらば狙って行くんだろ?」
「チャンスがあればアタックする。普通の事だ」
お互い、勝つ自信があるからこその選択だ。

こうして今泉が一番望まない形での、奇妙な三角関係が始まった。